ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
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製造現場の困り事を改善する強みを生かし、「トランスフォーム車いす」を開発!
マコトバイオニクス株式会社 代表取締役 小西 真 氏
会社名 | マコトバイオニクス株式会社 |
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住所 | 大阪府東大阪市荒本北1-4-17 クリエイションコア東大阪 北館408号 |
電話番号 | 06-6736-5722 |
代表者名 | 代表取締役 小西 真 氏 |
設立 | 2019年 |
事業内容 | 健康機器・リハビリ機器・福祉用具の開発、ロボット関連機器の受託開発・開発支援、産業機械の受託開発・省力化支援 |
奇想天外な「トランスフォーム車いす」の量産化にリーチ
乗っていた車いすを折りたたんで背負い、立ち上がって階段をのぼる…。なぜ立てるのか、なぜ車いすを背負えるのか。マコトバイオニクス株式会社の代表取締役・小西真氏から手渡された車いすの完成図は、疑問点が多い。ところが話を聞くと、ナルホド!と膝を打つ仕組みになっている。特長は5つ。①車いすの座面は自転車のサドルのような形状。②立ちあがると利用者はサドルにまたがった状態になる。③立ちあがる際、アシストスーツの脚部が利用者の脚代わりになる。④折りたたんだ車いすは利用者が背負うのではなく、アシストスーツが支える。⑤車いす~歩行~車いすと姿勢を変える際、着脱の必要が無い。
計画段階の製品だが、wheelchair(車いす)とwalkの頭文字から、W-Chair(ダブルチェア)と名付けられている。普通名詞にすると、『トランスフォーム車いす』といったところ。もちろん電動だ。「高級機ではなく、多くの人に使ってもらえるように上代15万円ぐらいの製品にしたい」と小西氏(以下、「」内は小西氏)。そのため、2023年は一台300万円、2024年は150万円、それ以降は15万円程度に収める計画を立てている。
「電動車いす市場は年率17%前後で右肩あがりに伸びており2022年には4.8兆円、2027年には10.5兆円になると試算されています。W-Chairの市場はそのうちの2%、2025年に56億円、2026年に132億円、2027年に193億円を見込んでいます。ただ問題は…」と、苦笑い。資金面の壁にぶち当たっているのだとか。
W-Chairの試作には、材料調達から専門技術による加工までトータル2,000万円ほどかかり、その後、量産化のための資金も億単位で必要となる。途中で『量産に向かない』となると、計画は頓挫し試作品もパー。つまり、量産できる製品・生産ラインの設計を踏まえて試作に着手しないと、たとえ資金があったとしても絵に描いた餅で終わってしまう。苦笑いしながらもどこか余裕を感じさせるのは、量産化まで見えているからだろう。
患者・医療現場が待ち望む「リハビリ機器」を生む技術力
建築関連から健康関連まで多岐にわたる開発実績が認められ、美容家電や介護関連機器の開発依頼も来る。こうした複数の製品開発と並行して、同社が独自に温めている製品がもうひとつある。7年間在籍した大手メーカーで開発したもののその企業の商品群に収まらず、生産に至らなかった『肘・手首リハビリテーション機器』だ。これにはアシストスーツとマッサージチェアの開発で培った、関節を直接機器で動かす制御技術が生かされている。
「脳梗塞をはじめとする脳血管疾患の後遺症で麻痺が残った人がリハビリをする場合、モチベーション維持や理学療法士不足といった課題があります。機械だと、一人ひとりの角度・速度・力の強さといったデータも簡単に取れますし、回復度合いの可視化によってモチベーション維持にもつながります」。実際、臨床データの結果が良く、必ず人の役に立つ機械だと確信。生産に至らなかった案件として持ち出し可能になったことで独立を決意し、2019年7月、『人の役に立つ機械をつくる』をミッションとして法人設立。MOBIOインキュベートルームを活動拠点として、量産化に向けて改良を重ねた。
当時のプロジェクトでつながった大学病院や技術者、さらには臨床データの収集に協力してくれる大手医療法人もあり、現在、特許2件を申請、1件を申請準備中。量産化を待ち望む患者や医療現場の声を耳にしているが、「これも資金が…、ね」と、またもや苦笑い。W-Chairの件もあり、同社にはドイツ・アメリカ・中国の投資家から引き合いが来ているものの「もっと多くの投資家さんに知ってほしい」と、本音を漏らす。
300以上の工場経験にを基に「製造現場の困り事」を改善
1964年生まれの小西氏は、大学卒業後、3~7年スパンで名だたる大手メーカーへ転職し、特殊ベアリングや航空機部品、マッサージチェア、空調機、ロボット技術を使ったアシストスーツなど幅広い分野の設計・開発に携わった。工場の設計・施工管理を担い、電気用品安全法や医薬品医療機器等法に沿った製品開発を手掛けることで、知識と経験を得る機会にも恵まれた。言い換えれば、転職のたびに、技術者としての武器を増やしたことになる。この武器は、ロボットベースの機械設計から量産まで計画できる同社の強みに直結。アドバイザーとして顧問契約している企業からも高い評価を得ており、工場の省力化や効率化の依頼が絶えない。
「三次元CADを使った強度計算・重量計算による、軽くて強度がある『ギリギリの設計』が得意なんです。ひとくちに量産と言っても、何十万個・何百万個が量産のモノもあれば、10個・20個が量産のモノもあります。いずれにせよ製品開発も生産ラインの設計も実用化が前提です。依頼主(企業)が使えるところまで責任を持ちます」と断言。「たとえば『人の動き』ひとつを取っても、工場によって習慣の違いがあります。A社ではワキを締めて行う作業を、B社ではワキを開けて行うといった違いです。そうした習慣まで考慮することで、危険を回避しながら生産効率のあがる工場へ改善します」と、細部まで余念がない。
協力工場の視察から既存工場の改善、新規設計にいたるまで、国内外300以上の工場を知る小西氏。だからこそ、『量産化を見越した製品開発』や『量産化のための工場の改善サポート』など、あらゆる製造現場の困り事を解決できるのだ。MOBIOで新たな協力企業に出会い外部ブレーンの層も一段と厚くなったいま、まさに虎に翼。車いすを背負った人がまちを闊歩する。そんな日の訪れが待ち遠しい。
2021年8月30日(月) ライティング:オフィス・ハッピー
MOBIO担当者より
「必要な人に届くように。」という思いを込めて、量産化を考えた設計ができる小西社長。これまでの経験をすべて身に付け、新しい形にしていかれる姿は、自らがトランスフォーマーのよう。
変幻自在という印象。普段の会話の中では気づかなかった、小西社長の真の姿を見た気がします。(MOBIO奥田)